タイトル

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 8年くらい前から毎年入谷の朝顔市には出かけている。幼い頃に父に連れられて行った記憶はあるが、成人してからは植木が好きな上司の誘いで初めてでかけたのがその年だった。その時はほんとうによく、端から端まで一軒一軒の朝顔を観察して歩いた。

「四色入ってるよ。四色!」
「団十郎入ってるよ!」
「いいとこ見るよ!持ってってちょうだい!!」

 と道々で声をかけられる。

 四色入っているというのは、1つの鉢に四本の茎がでていて、それぞれの茎から赤、青、白、紫の別々の色が咲くと言うことで、1鉢で4倍楽しめるというわけだ。団十郎というのは、歌舞伎役者の団十郎のことでしぼりのような古代紫色の花が咲くということらしい。朝顔にもそれぞれの年々で流行のものがあるらしく、団十郎というのも流行のひとつらしい。

 とある1軒の露天で「これはめずらしい日の丸だよ。」と言われたものがある。「日の丸?」これは、普通の朝顔は花の周りが赤く真ん中が白くなっているが、日の丸というのはそれが逆で花の周りが白く中央が赤い色になるらしい。市にでかけたのが夜だったために実際に花が咲いているのは見られない。本当にそうなるのだろうか?と思いながらまた歩き始めた。

 でも私はその日の丸がとても気になった。やっぱりあの日の丸を買ってみたい。でもどこの店だったかわからなくなってしまった。

「いいとこ見ますよ。持って行ってちょうだい!」
「日の丸ありますか?」
「??」

 どうやら最近の流行らしくまだ知らない人もいるようだ。「まわりが白くて真ん中が赤いやつ。」と説明してしまう。

「??」 やっと見つけだして気になる日の丸をゲット!

 もうひと鉢くらい何かほしいな。どこの店で買おうかと歩いているとひとりの威勢のいいお姉さんが「いいとこ見るよ!持ってってちょうだい!」と声をかけてきた。何となくそのお姉さんのテンポにひかれて何鉢か選んでもらった。また、知人に頼まれているので送りたいと相談してみた。「今日はもう郵便局終わっちゃったから明日になるけど、いいよ! 送っといてやるよ! 送り先ここにメモしといて。」と気っ風よく引き受けてくれた。

 当時は今のように宅配便が普及していなかったので、買った朝顔を送りたいときは自分で下谷郵便局に持ち込まなくてはならなかった。 「もし着かなかったりしたらここに連絡して!うちだからさ!いいとこ送っとくからさ。心配しないで!」と電話番号をメモしてくれ、愛想よくその仕事を引き受けてくれた。

「うちはいつも6番だから、また来年もよろしくね!!」


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 選んでもらった朝顔は本当によく咲いた。日の丸朝顔も咲いた。言われたとおりまわりが白く真ん中が淡いピンク色の花だった。おみごと!! でもこれってそんなに珍しいものなのかなぁ・・・とも思ったがとにかく気に入った。

 それから毎年朝顔市に行き、必ず6番で数鉢選んで貰う。結婚した時は主人とでかけた。あのお姉さんがいた。

「アレェー去年と違うお兄さん連れて!」
「主人」と言うと
「結婚したんだぁ。いいダンナじゃない。」
そして、「あれ、うちのダンナ」

と言ってご主人を紹介してくれた。「また来年ね。」と会話をかわして別れた。

 次の年今度は娘をだいて朝顔市に行った。「アレェー子供生まれたんだ。かわいいねぇ。うちなんかもう中学生の男の子ふたりだからねぇ。こんな小さい子なつかしいねぇー。」

 そう言われてこっちがビックリした。

「エェー中学生がいるの?お姉さんどう見たって30代はじめだよ。私と歳そんなに違わないと思うよ。ホント若いよ。信じられない。」

 粋で気っ風がいい、あねさんという感じのお姉さんが私は好きだ。

 だから毎年朝顔市に6番の店に行く。今年も6番の店を訪ねた。アレーお姉さんいない・・・探してみる。いたいたいた。

「アーお姉さん来たよ。」と言うと娘を見て
「なんだ、もうこんな大きくなっちゃったの?早いねえ。ねぇいいとこ選んでやって。」とおじさんに声をかけてくれる。「ねぇ。ひと鉢あげるよ。持ってきなよ。幸せそうじゃん!ひと鉢あげてくれない。この子ね、子供ができる前からずっと来てくれてんのよ。」と言って私たちが買った普通の朝顔の他にききょう朝顔の鉢をひとつプレゼントしてくれた。やっぱりお姉さんは粋で気っ風が良くて情があってカッコイイあねさんだと思った。私たちは幸せな気持ちになり、いい気分で親子三人朝顔の鉢をぶらさげて帰った。

 あねさんは1年に1回会える七夕のような人だ。

1997/7/7   by Tama-Chan

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