タイトル
その3−縁日の金魚−


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 お祭りの縁日と言ったら誰でも子供のころの思い出を持っていることと思う。やっぱり子供でも金魚すくいやヨーヨーつりやスーパーボール等のゲーム感覚、ギャンブル性のあるものが好きだった。

 中学生の頃はヨーヨーつりに凝っていた。仲のよかった友人とあっちこっちの縁日のヨーヨーつりを渡り歩いた。いかに糸を丈夫にするかを考えた。油をつければ水をはじくと教えられ、鼻の頭の油をすりこんでみたりした。その原理を発展させて指に油分をつけて行けばいいんじゃないかと考えた。そこで当時どこの家庭でもひとつはあったオロナイン軟膏を指先にめいっぱい塗りこんで縁日にでかけた。もらった針の糸よりに指先のオロナインをぬりこんだ。結果はたいした収穫ではなかったと思う。こうして覚えていないくらいだから・・・

 近頃の縁日のヨーヨーつりも金魚すくいもすぐに終わってしまいつまらない。何百円も払ってヨーヨーを一個つる重みにも耐えられない糸より。水につけるとすぐに破れてしまう金魚すくいの紙。これじゃ何のギャンブル性もなくてつまらない。

 去年の鳥越祭の縁日の中でひときは賑わっている金魚すくいの露店があった。人ごみをわけてのぞいてみる。店の後ろにヒモが張ってあり、そこにたくさんのメモ紙が吊してある。チャンピオン「××小学校5年生○○さん 80匹」とか1等賞「××小学校6年生○○さん35匹」などと書いてある。金魚すくいをしている子供たちの椀の中を見ると真っ赤になるほどたくさんの金魚をすくっている。金魚すくいの紙は半分くらい破れているがまだ半分の部分ですくっている。いや半分でも金魚がすくえるほど丈夫な紙でできているのだ。 だからその露店にはひとりの子供が長く居る。たくさんすくっていると見物人が増える。次に金魚すくいをやりたい子供が並んで列をつくる。 小さい子供には紙ではなくビニールが貼ってある。これなら小さい子供でも紙が破れることなく一匹くらいは金魚がすくえる。

 露店のご主人はおじさんだった。なんて太っ腹なご主人だろう。追われる金魚はかわいそうだが、これが一生子供たちの心に残る金魚すくいだと思った。

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 4歳の娘も金魚すくいをしたがった。普通の金魚すくいだったらお金の無駄と思うが、これならやらせてあげようと思った。「ビニールの1つ」と言って買ってやった。 スイスイ泳ぐ金魚を水の中でぐるぐる追い回しても破れない。こんな小さな子供でも数匹の金魚がすくえた。子供は紙がやぶれていなくてもこれで満足で次の子供に交代する。 おじさんがすくった金魚の中から一匹をビニール袋に入れて子供たちに持たせている。 「ウチは面倒みられないし、死んじゃったらかわいそうだから貰いたくない。」と思っていたが、娘はすくった金魚の中から赤黒白の三色入った金魚を指名して袋に入れて貰っている。大満足の笑み。

 すぐ死んじゃったらどうしよう。イヤだなぁと思いながら我が家に持ち帰りさっそく入れてやる物を探す。コップじゃ小さすぎるし、バケツでもかわいそう。そこで、結婚式の引き出物にいただいた丸い花瓶の中に入れてやる。なんとかわいらしい風情。

 少し弱っているんじゃないかと気になり何度と無く覗いてみるが、結構元気に泳いでいる。金魚すくいで子供たちに追われていた金魚だから逆に丈夫なのかなぁと感心する。

 翌朝金魚が生きているか気になって早起きしてみる。元気に泳いでいる。娘も何度も覗いてエサをやってみる。よく食べている。そのまま娘は保育園に私は会社に出社した。それでも金魚が気になる。あのままではきっと死んでしまうと思い、昼休みに社の近くの熱帯魚屋に行き空気ポンプを買って来た。これで、しばらくは安心とその日は急いで帰宅した。

 金魚は花瓶の中で浮いていた。

 娘は保育園から帰りすぐに金魚のところに飛んでいった。すぐにおばあちゃんのところに来て「金魚寝てるよ。」と言ったそうだ。

 死んだということを生まれて初めて知った。よく理解できていない。でもなんだかすごく悲しい気持ちになったようだ。私はどう説明したらよいか戸惑い、とにかくあれだけ一生懸命世話をしようとしていた娘の気持ちを考えるとすぐにかわりの金魚を買ってやろうということしか考えられなかった。

 電話帳で近くに熱帯魚屋さんがないか調べてみる。浅草橋に一軒ペットショップを見つけた。時間は午後七時半。すぐに電話をかけるとおじさんの声で「今閉めちゃったんだけど、何?」「・・・あの金魚売ってますか?」「ありますよ。今日はもう終わりだから明日来てちょうだい。」残念・・・。それでも私達夫婦は娘の悲しそうな顔を見ていられず、車で夜の金魚屋探しのドライブにでた。もしや午後九時ころまで開いている店があるかも・・・と。「あそこにペットショップあったよね。」「あそこんとこにも熱帯魚屋があったと思うけど。」と心あたりをグルグルと何軒かまわってみたが、やはりどこも閉まっていた。そして、やっと娘もあきらめて三人で家路についた。

 次の日私は本屋で「金魚の飼い方」という本を買って、仕事が終わると急いで家に帰り娘を連れてきのう電話をかけたペットショップにでかけた。店には昨日の電話の声のおじさんがいた。何でも知っていて頑固でやさしそうなご主人だった。娘が「丈夫な金魚をください。」と言った。するとへんな顔をして「丈夫っていったらメダカだね。」と言われてしまった。「昨日金魚すくいで貰った金魚が死んでしまった」ことを言うと、「絶対この金魚は金魚すくいの金魚と一緒の水槽にいれちゃダメだよ。」と言ってかわいい金魚を娘に選ばせてくれた。パパとママと自分のと三匹の金魚を持って帰った。

 帰るとおじいちゃんが何十年も前に使っていた水槽に水を張って用意してくれていた。水槽に移すと今度はかわいい金魚が三匹自由に泳ぎはじめた。それから娘には朝の金魚のエサ当番の仕事ができた。一家中が金魚騒動の三日間だった。

 あれから一年、今では金魚の世話はすっかりおじいちゃんの仕事になっている。今年のお祭りにもあのビニールですくわせてくれる金魚すくいの露店のおじさんは来るだろうか?

1997.5.31 by Tama-chan

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