第5回 浅草で拾ったメディアの紹介 [96/05/31]

【拾った場所】リブロ浅草
【タイトル】「ぼくは12歳」 岡真史著 ちくま文庫

12歳にして死を選んだ作者の詩,作文集。  夭折した若者たちの文学というのは確立されているようで、かつては日記という形で高野悦子や奥浩平、近年では山田かまちなどが有名であるし、あたしもそれぞれ「死」という琴線にふれながら触発されたのであった。
 そして、この本もたまたまそういったジャンルということでふと惹かれてしまったのだが、この中の詩に「道でバッタリ」というものがあって,実はあたしはこの詩を中学校の卒業文集に書いていたのであった。この詩は矢野顕子のアルバムの1曲にあり、オリジナルは彼女のものだとこの本に出会うまでまるで知らなかったのだ。まさに再びの邂逅であったのだ。
 内容は「道でなにげなく(主語も目的語もない!)であって、とおりすぎただけなんだ。でもそれって世の中がひっくりかえるくらいすごいことなんだ。けれどふたたびであうことはなかったんだ。」というもので、一言で言えば「一期一会」なんだけれど、卒業文集に載せる位気に入り,さらにそのあたしの行動規範になった様な詩を邂逅させてしまうような,まさに「バッタリ」な内容を喚起させるようなこの本の存在、そして死せる作者の存在が,文庫本という形態であってさえ輝くまでの闇を放つかのようだ。
「あれからなんべんも/この道を歩いたヨ/でももう一度も/会わなかったよ」


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